10月25日発売のアートコレクターズ11月号(生活の友社)p.70に特別連載”版画工房アーティー制作の現場からvol.6”が掲載されました。
こちらの記事は、版画工房アーティーが専門に制作する”ジクレー版画(デジタル版画)”を切り口に、様々なアーティストや画廊へインタビューする連載記事となっております。
第6回は隱丘畫廊 HILLSIDE GALLERYの唐聖予さんにインタビューをさせて頂きました。
テーマは「日本のアートシーン」についてです。
PDFファイルでお読みになりたい方はこちらをクリックしてください。
記事全文は下記よりお読みいただけます。
アーティー 唐さんとは、2015年に七戸優先生の版画制作で弊社を訪ねて来て下さったのが最初の出会いでしたね。本日は、アジアを拠点としたアートマーケットでお仕事されている唐さんに、ジクレー版画(デジタル版画)に限らず様々なお話を伺えたらと思っています。まず、アジアという枠組みから日本のアートをご覧になって、どのように感じられますか?
唐 日本は美術水準が高く、アーティストの質も高いのが特徴だと感じています。純粋にアーティストを目指している方もすごく多い。しかし日本の国内マーケットがそれほど熱くないことで、力のあるアーティストたちが充分に世界で認知されていないし、残念ながら埋もれてしまっていると感じています。
アーティー 確かに日本のアートマーケットの現状は誰もが認めるところではありますよね。
唐 日本ではバブル崩壊後、アートを購入する勢いが失速してしまいましたよね。次第にアートは美術館で鑑賞するものとなり、購入意欲が減退していったのはとても残念なことです。でも、その事でアーティストが埋もれてしまってはいけないし、ましてやアーティストの成長や表現したいという欲求とは関係のないことです。
アーティー そこに唐さんのやりがいが出てくるわけですね。
唐 おっしゃるとおりです。才能のある人を支援したり文化として育てていくのは、一つの方法ではあります。しかし、作品が売れて、収入を得、キャリアを積んでいくのが、アーティストにとっても健康的な成長の方法の一つではないでしょうか? 父と私は、長い間アジアを中心としたアートマーケットに関わってきました。その経験を生かしてまずはアジア、そして世界に向けてアーティストの発信をしていきたいと思っています。すごく意義のあることだと感じています。
アーティー なるほど。なぜ唐さんが日本人である七戸優さんを見出し、アジアのマーケットへ積極的に売り込んでいったのか理解できました。
唐 私は日本の文化や芸術に惹かれ、日本に長く住んでいます。中国語圏でも、日本に興味がある人が年々増加しています。しかし、日本の言語バリアが高い壁となり、興味や関心があっても、その先まで進めない人が多いのが現状です。それに加え、言葉で表さない独特のコミュニケーションの取り方や、美意識が根付いていますよね。
アーティー 一を聞いて十を知る文化ですよね。物事の一端だけを伝えて、あとは相手に理解してもらう。これは日本人の美意識にもつながっていくのでしょうけれど、外国の方には、そこまで理解できないことのほうが多いでしょうね。
唐 より深く日本のアートに触れてほしいとの思いから、昨年末にここ八王子にギャラリーを設けました。幸い私は日本語・中国語・英語が話せますから、アートをきっかけに国境を越えたコミュニケーションが生まれる場所でありたいと願っています。この仕事を始めて、絵を見て買ってもらうことだけがアートの仕事ではないと強く思うようになりました。
アーティー 唐さんのビジネスは、アートを取り扱いつつも、もっと大きな意味での文化交流や相互理解を目指されているのですね。弊社へは版画制作を目的にいらしていただいたわけですが、「日本での版画制作」というのもやはり意味があってのことなのですか?
唐 原画が手元にあり、それを版画化する場合、細かなディテールをどれだけ表現することができるのか、そのことが一番重要になってきます。特に美術作品は「小さな差をどれだけ積み上げられるのか」が勝負になってきます。こういったことが出来るようになるには、かなりの時間と文化の蓄積が必要になってくる。その部分に関して、日本の技術力を頼りにしています。
アーティー 実際ジクレー版画をお作りになってみていかがでしたか?
唐 油絵の魅力の一つでもある、光を当ててみて初めて分かるような描写表現は、版画では再現できないだろうなと思っていました。でも実際にアーティーさんに伺って、作家と工房さんが色校正を重ねていくうちに、見事に微妙な表現を再現されていく過程を拝見してすごく驚きました。
アーティー それはよかったです。今後版画化される予定の作品もお決まりなのですか?
唐 基本的に版画制作のための絵の選定は、作家が所有していて手放す予定のない作品にしています。今回は6点制作しましたが、もう何点かすぐにでも制作したいと思っています。
アーティー それは面白いですね。よりプレミア感がついて版画にする意味が増しますね。今日は日本という枠を飛び越えた、大変有意義なお話をありがとうございました! 今後ともよろしくお願いいたします。(2018年4月 隱丘畫廊HILLSIDE GALLERYにて談 構成㈱アーティー)