11月20日発売の美術の窓8月号(生活の友社)p.94に特別連載”版画工房アーティー制作の現場からvol.6”が掲載されました。
こちらの記事は、版画工房アーティーが専門に制作する”ジクレー版画(デジタル版画)”を切り口に、様々なアーティストや画廊へインタビューする連載記事となっております。
第6回は画家の中島健太先生にインタビューをさせて頂きました。
テーマは「版画制作」についてです。
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記事全文は下記よりお読みいただけます。
アーティー 今年2月、中島健太さんの油彩作品「呼吸」の版画制作をさせていただきました。その後、健太さんが版画制作について書かれたブログを拝見させていただき、健太さんのお話をもっと詳しくお聞きしたいと、ご連絡させていただきました。
中島 ありがとうございます。僕が版画を制作するに至った経緯は、池永康晟さんのジクレー版画の作品を見て、「これは本当に版画なのか⁈」と思ったのがきっかけですね。僕も10年美術業界にいる者として色々なところで、版画に対するネガティブなイメージが刷り込まれてきていました。一方で版画が持つ、多くの人に楽しんでいただくことができるという可能性は、今でもすごく大きいものだと思っています。
アーティー 今、業界には版画というものの類がいくつも飾られていると思うのですが、その中で、池永さんの版画作品に何を感じたのでしょう?
中島 池永さんの版画作品を拝見したときに、そこに絵の質感が、絵肌があった。そこが今まで見てきたジクレー版画との大きな違いに感じます。絵画において、特に我々のような写実作品と写真やプリントの境というのは、絵肌があるかどうかだと思うのです。写真やプリント、或いは今まで見てきたジクレー版画は、すごくフラットなもので、そこに触れられる感覚、触感みたいなものはない。それに対して絵画は絵肌というものがあって、対面したときに感じるアナログベースの質感があります。その絵肌が池永さんのジクレー版画作品にはあったんですよね。これは素晴らしいものだと思いました。それをどこが制作しているのかといったときに、アーティーさんにたどり着きました。
アーティー なるほど。健太さんなりの道筋があるわけですね。健太さんのブログでは、版画=廉価版の粗悪品というイメージや風潮があったと、書かれていますよね?
中島 はい。ある美術館の展示を見に行った時に、出口の販売コーナーで、ジクレー版画が売られていたのですが、それはもうはっきり言って粗製乱造系。だからある意味、版画のイメージを壊してきたのは、むしろ美術業界そのものというか、我々が版画のイメージを廉価版の粗悪品というものにしてしまったというところがありました。私の中に、ジクレー版画はどうしても、表面に何か吹き付けたとか、インクが乗っているとか、そういうものの粒子が粗いとか、寄った時に滲みが見えるとか、その様な印象があり、「版画なんて所詮……」というイメージがついてしまったというのがありますね。また一方で、百貨店に依存している日本の美術絵画市場というものも、すごくハードルが高い、門戸が狭い、敷居が高い。一般の方は行かないじゃないですか、だから、来てくださいって言うのは簡単ですが、それで来てくれるかというと、そんな簡単ではないですよね。やはり、作品は見てもらう、知ってもらう、持ってもらうのが一つの流れなのですが。
アーティー 健太さんが見聞きしたものや、様々なイメージが混然となって出来上がってしまったものが、今まで版画を作ることに対して躊躇する原因となっていたのですね。それが、「呼吸」の版画を作ってみたらイメージが変わったというところでしょうか。
中島 はい。アーティーさんで初めて版画を制作し、色校正サンプルを見て、本画と並べた時、ジクレー版画にも別の質感があり、これはこれで独立した絵肌を感じ、感銘を受けました。お話を伺うと、「原画とは違う複製のにおいのしないもの、出来上がりに感動できるもの」という根底にあるコンセプトが、ちゃんと表面にうまく結びついているという感じでしたね。版画として独立して美しい作品が、本画よりは少し価格が抑えられた形で持っていただけるというのは可能性が広がるなとも思いました。
アーティー 原画と比べて近いねじゃなく、単独で美しいということが重要ですよね。アーティーのアーカイバル版画は、原画を基にはするけれど、出来上がりが近くなると原画から離れて、ここがこうなったらさらに良いよね、などと作家様と作品を作り上げていきます。これが我々の楽しみでもあるんです。今回は大変嬉しいお言葉をありがとうございました。今後も、中島さんの幅広い活動を楽しみにしております!(2018年10月 版画工房アーティーにて談 構成㈱アーティー)