美術の窓6月号(生活の友社)掲載のお知らせ

5月20日発売の美術の窓6月号(生活の友社)p.58に特別連載”版画工房アーティー制作の現場からvol.3”が掲載されました。
こちらの記事は、版画工房アーティーが専門に制作する”ジクレー版画(デジタル版画)”を切り口に、様々なアーティストや画廊へインタビューする連載記事となっております。

第3回は画家の島村信之先生にインタビューをさせて頂きました。
テーマは「写実絵画の版画化」についてです。

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記事全文は下記よりお読みいただけます。


アーティー 島村さんとは2010年に鉛筆画家の篠田教夫さんの個展で、偶然お会いしてからのお付き合いとなりますね。その後ご縁があり、版画制作させて頂いております。版画と一口にいっても、その技法は多岐にわたります。そんな中どうしてジクレー版画(デジタル版画)をお選びになったのでしょうか?

島村信之先生(以下敬称略) 私の場合は超細密画なので、通常の技法、例えばリトグラフや木版、シルクスクリーンでは、満足のいく表現は難しいだろうと思 っていました。ジクレー版画もいくつか見てはいましたが、いずれも品質面で満足いくものにはなかなか出会えませんでした。

アーティー その頃はちょうどジクレー版画の過渡期に当たる頃ですね。

弊社で制作した版画の一部。右手前は新作「蝶三種」。

島村 はい。ですので、篠田さんの個展で、ジクレー版画を見た時は衝撃的でした。そのあと、箱根にある「玉村豊男ミュージアム」にも品質の良いジクレー版画が展示されていると耳にし、そちらにも足を運びました。一度目は一人で、二度目は銀座柳画廊の野呂社長と副社長をお連れして。
実際に質の良いジクレー版画を二つの場所で目にし、「超細密画を版画化するなら、ジクレー版画が最適だ」と確信しました。
そのいずれの版画も制作されていたのがアーティーさんだったのです。

アーティー 箱根に二度も行かれたとは驚きました。それからすぐに銀座柳画廊さんで出版となったのですか?

島村 いえ、そこからの野呂社長の対応が慎重でした。かなりの時間を掛けてジクレー版画を出版することのメリット・デメリットや評判を探ったようです。そして最終的に、当時認知度が低いジクレー版画ではあるが、「画廊が版権管理をきちんと行うこと」「専門の版画工房が制作すること」この2点の条件が揃えば、原画の価値を上げる可能性も大いにあると、出版に踏み切ってくださいました。作家として野呂社長の慎重な対応を信頼していますし、私としても、出版後は自信をもって人に勧めることができます。

アーティー 色校正の際には実際に工房に来て頂きましたよね。原画の横に試刷を並べて、その場で色校正を行っていきました。制作してみていかがでしたか?

島村 以前描いた作品をもう一度作り直す感覚があり、とても新鮮に感じました。
油絵で描いた原画と、インクの吹き付けによるジクレー版画では当然紙も材料も異なります。版画独自のアプローチで「新たなアート作品を工房と一緒に作り上げていく」。そのプロセスがとても刺激になりました。

アーティー 私どもは原画をお預かりしてから、まず原画に色を合わせます。でもおっしゃる通り、材料が違いますから色が合っているだけでは軽い仕上がりになってしまいます。なので、いったん原画から離れて版画独自の「Grow(輝き)」を発する取り組みをします。そして、自分の中で満足できる状態になったら作家さんをお呼びします。そこからは、作家さんと共に色校正をしていくわけですが、その過程がこの仕事の醍醐味ともいえる部分です。特に島村さんのアプローチは大胆かつユニークで毎回非常に刺激になります。「全体的にイエローをグレーズしてみようか」「思い切って背景をもっと後ろに下げてみようか」などの要望に驚かされますが、やってみると魔力のように作品が立ち上がってくる。

色校正が終了すると、日付・タイトル・作家サインが入り、工房で色見本サンプルとして保管される。

島村 気づいたことを言うだけなら、日ごろ原画を描く上で、自身の中で行っていることなので慣れています。しかし工房側は的確にそれらを表現するのが難しいですよね。 あと、版画を作ってみて作家にとっての副産物がありました。それは作品が私の手元に残ることです。精魂かけて描いた原画は、購入者の手に渡ってしまうと作家には何も残りません。しかし、版画出版の際、銀座柳画廊の野呂社長の計らいで*AP(*アーティストプルーフ=作家保存用)を頂けました。これは私にとりまして大変ありがたいことでした。

アーティー なるほど。それほどまでの強い原画への思い入れが、版画制作へ向かうエネルギー源となっていくのですね。本日はどうもありがとうございました!
(2018年1月 版画工房アーティーにて)