美術の窓2月号(生活の友社)から連載を開始している「版画工房アーティー 制作の現場から」。
版画工房アーティーが専門に制作する、”ジクレー版画(デジタル版画)”を切り口に様々なアーティストや画廊へインタビューするコラムとなっています。
第2回は銀座柳画廊様にインタビューをいたしました。
その記事がアートコレクターズ3月号に引き続き、美術の窓4月号(生活の友社)に掲載されました。
テーマは「画廊が版画を出版すること」についてです。
※対談風景 奥が銀座柳画廊野呂社長 手前がアーティー代表加藤
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記事全文は下記よりお読みいただけます。
アーティー 柳画廊さんとは、2011年に島村信之先生の版画制作のご依頼を頂き、それからのお付き合いですね。初めはどのような経緯で版画を出版されることになったのでしょうか?
銀座柳画廊 野呂社長 版画出版にはずっと興味はありました。島村信之先生の作品ですと数百万する原画も順番待ち、年に数点発表される鉛筆デッサンは奪い合いという状態です。それなら作品集を作ろうとなって販売したところ、現在まで1万冊以上売れているわけですが、「芸術作品」という位置づけだと、やはり満足がいかない。お客様のニーズに応えるとなるとやはり版画の形態が一番適していると感じています。
アーティー では、ずっと版画工房を探していたのですね?
野呂 そうです。そうしているうちに信之さんから「ぜひここで作りたいと」御社の紹介を受けました。ただ、当時はジクレー版画の過渡期だったこともあり、その品質も玉石混合、まわりの画廊からも「やめておけ」とネガティブな声も多く、出版するまで相当な時間を要しました。
アーティー 実際どのようなことをお調べになったのですか?
野呂 「版画にすると原画の価値が下がるからやめておけ」と色々なところから忠告を受けたのですね。果たしてそれが事実なのか調査しました。すると、東山魁夷にしても、横山大観にしても、版画化されている作品の原画はものすごく価値が上がっていることがわかったのです。日本では、なぜか、原画を版画化すると原画の価値が下がると思われることがとても多いのですが、版画化されるという事は、画集の表紙になる事と同じくらい名誉な事なのです。そこの誤解を解きたかった。ただ、それも前提があって、「画商が版権管理をきちんと行っている事」「専門の工房が版画を制作している事」この2点が条件です。
アーティー アメリカでもそうですけど、「版画化したいから、原画を貸してくれ」というと、すごく原画の所有者は喜びますからね。代表作しか版画にしませんから。
野呂 ジクレー版画に対する反応も、「デジタルはちょっと…」といった声もありました。しかし、本式のエッチングや石の版に書き込んでリトグラフを作っている工房は国内外合わせても、ほんの少数しかありません。リトグラフと称していてもいずれも写真製版を取り入れて、デジタルの工程を踏んでいる。
そうなると、どんどん技法の境界が曖昧になります。それに、実物を見ればわかります。「いいものはいい」と。実際に質のいいジクレー版画に出会って「誰かがやらなくてはいけない」という使命感が湧いてきました。
アーティー 野呂社長が踏み切ってくださったのが、なんとも勇気付けられます。
野呂 ただ制作する工房によって差が大きいのも事実です。低いクオリティのジクレーなら、シルクやリトの方が良いと思われる画商も多い。そこはアーティーさんのスタッフの技量に関わってくるところですからね、どうぞよろしくお願いします。
アーティー そのお言葉に襟を一層正す気持ちになりました。今後もジクレー版画制作に邁進してきます。今日はどうもありがとうございました!
(2018年1月 銀座柳画廊にて)
※画廊に並ぶ島村信之先生の新作版画版画。2017年は2作が新たに出版となった。
※島村信之先生の版画。左からエディションナンバー・銀座柳画廊刻印・先生のサインが入る。