美術の窓2月号(生活の友社)掲載のお知らせ

この度、美術の窓2月号(生活の友社)に「版画工房アーティー 制作の現場から」という記事が掲載されました。

この記事は、版画工房アーティーが専門に制作するジクレー版画(デジタル版画)を切り口に、
様々なアーティストや画廊へインタビューするコラムとなっています。
第1回目はイラストレーターの飯田友和様です。
ジクレー版画に本金箔を貼りたいと、弊社を探してくださいました。
果たして結果は…?
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記事は下記よりお読みいただけます。


2017年10月、
「本物の金箔を使用して、ジクレー版画を作りたい」という問い合わせがアーティーに舞い込みました。

データで作られた作品画像を拝見すると、細い線や細かな箇所にも金箔貼りをご希望との事。
金箔を使ったジクレー版画は今までも手がけてきたアーティーですが、このような細かな箇所に、黒や他のカラー刷りと寸分の位置ずれも許されない精度で金箔を貼ることは可能なのかー。
そしてさらに、黒の質感に
「深みのあるマット仕上げ」のリクエストも加わり、様々な挑戦が詰まった一作になりました。

アーティー 今回どのような経緯でアーティーを選んで頂いたのでしょうか?

飯田様(以下敬称略) ジクレー版画を依頼するにあたり、今回は金箔を使うことを想定して制作しておりましたので、金箔貼りをやって頂けるところを探しておりました。よくあるフィルム状の光沢素材を使った箔押しでは無く、本物の本金箔をです。いろいろ探しましたが全く見つからず諦めかけていたところに、やっと御社にたどり着きました。

アーティー 飯田さんはジクレー版画の制作は初めてだったのでしょうか?

飯田 いえ、金箔など特殊なケースではなかったですが、以前に他社で制作したことがあります。通常の印刷と比べれば確かに良い紙を使っているし、発色も綺麗だったのですが、何か物足りない。求める色味の違いを伝えても応じてもらえず、調整をして別途依頼をとの事で、その都度正規費用がかかり、果たして何回発注すればという見通しもたたない。また、所詮、普通の印刷の軽さの域を期待ほど超えてはおらず、私が求めるクオリティには達っさないと感じました。これがジクレー版画の限界なのか、もっと良いところはないのかと他を探しておりました。

アーティー 今回アーティーで仕上がった作品はいかがでしたでしょうか?

飯田 私が求めていたクオリティを上回る素晴らしい出来でした。と言うのは、自分自身でも「この要望は難しいのではないか」という事を、すべてクリアしていたためです。質感、重みのあるしっかりとした発色、難しいと思われた金箔部分、すべてのクオリティが高く、まさに求めていたものが具現化されていました。

アー ティー 飯田さんの今回のご依頼の最大の特徴「位置制度の高い本金箔貼り」については、金箔用の糊と絵柄を、特殊プリンター1台で刷る事で寸分のズレなく本金箔を貼ることができました。しかしながら、このプリンターで絵柄を刷ると、作品の黒地が若干艶のある黒になってしまう。それでは飯田さんが望むもう一つの要望である「深みのあるマットな黒」ではなくなる。さてどうしようかと思い、飯田さんをお呼びして一緒に悩むことにしました。(笑)

飯田 「マットな黒の質感の中に本金箔の輝きが浮き出る面白み、際立ち」といった点が大事だったのでそこは重要なこだわりでした。

アーティー 今まで、黒を含めた「絵柄部分への艶出し加工」はたくさんご依頼いただいてきました。しかしその逆はまれな事です。しかも「金箔部分の輝きを残したまま」というかなり細かい精度が要求されたので、試行錯誤しました。

飯田 途中経過を拝見しに伺った時、試作品を5枚、6枚と作っておられるのを見て 、非常に驚きました。そもそもの私の注文枚数が1枚だけだったのにです。しかもそれぞれ金箔貼りまでしてあり、試し刷りの域を超えていました。「これはこの部分が気に入らないです。こちらは金箔の状態に不満があります」等、そのこだわりには感嘆致しました。

アーティー 美術作品を作っている以上、どこかを妥協した作品をお出しするのは、版画工房として意味がないですし、それにこの試行錯誤がアーティーのステップアップにつながりますので。

飯田 それを伺って、「ああ、この方達はただ仕事として印刷しているのでは無い。誇りと信念を持っているクリエイターなのだ」と思いました。クリエイターであるからこそ、作者のこだわり、気持ちを理解して頂けている。持ちうる技術を駆使し、前例がなければ作り出し、版画として仕上がった時、作者だけでは無く、アーティー様にとっても誇れる作品作りをなさっているのだと。

アーティー 作家の皆様と同じ目線で、共に物づくりをし、原画とはまた違った価値を見出す「版画制作」というものに 日々挑戦しております。これが「ジクレー」に代わる私たちの独自商標の「アーカイバルⓇ」のコンセプトです。今回のようにデータからスタートする案件も非常に多く、 改めてジクレー・アーカイバル版画の持つ可能性に私たち自身も驚くことも多いんです。

金箔をあらかじめサイズ毎にカットし、素早く貼っていきます。

飯田 お打ち合わせの際に、見たこともない様々な技法、印刷技術、メタルや漆板への刷りやさらに金箔・螺鈿といった 伝統工芸等を色々と拝見させて頂き、こんなことが出来るのかと刺激を受け、非常に見識が広がったと感じます。版画の手法において、作り手によってこれほど完成度が上がるのかと驚き、私もやってみたいという思いも抱きました。また共に作品を作らせて頂きたいと思っています。

アーティー ありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願いいたします!
(版画工房アーティーにて)

 


完成作品はこちらです。


「黑凜」2017年  飯田友和(無断転載禁止)

顔部分アップ。ピアスの細い線、金箔貼りがズレなく表現できました。 実際にこのピアスは1㎝にも満たないサイズです。