小冊子 「田中一村 -アーカイバル(複製画)-解説書」その①

この度田中一村の新作版画出版に合わせて、
小冊子 「田中一村 -アーカイバル(複製画)-解説書」がNHK出版より発行されました。
監修・解説は大矢鞆音様です。
田中一村が暮らした奄美大島のこと、一村のその生涯にふれ、
版画化された3作品について、ひとつひとつ丁寧な解説がお読みになれる冊子となっております。
版画をご購入の方へお渡しされるとのことです。

また、小冊子後半にて「9.アーカイバル技法による複製画」と称しまして、
弊社のアーカイバル技法について取り上げていただけましたので、ご紹介いたします。

「アーカイバル技法による複製画」

画家によって描かれたオリジナル作品は基本的には1点しかない。
しかし印刷技術を用いれば同じ絵を複数製作することができる。
その技法は19世紀にヨーロッパで開発されたリトグラフ(石版画)、
次いで木枠に張った布を版として用いるシルクスクリーン(セリグラフ)と発展するが、
いずれも版を用いて刷り上げる技法である。

それに対し1991年にアメリカで、当時技術が確立しつつあったインクジェット出力をアート作品として試みる動きが始まる。
従来の物理的な版という制約を取り払い、
複製画制作に表現の幅を広げる意義があった。
この技法によって製作された複製画は、「吹き付け」を意味するフランス語でジクレーと呼ばれる。

版画工房アーティーは、1987年にアメリカでシルクスクリーン版画工房として設立した。
SGIA(特殊印刷業者の国際組織)の美術印刷部門で高い評価を得、3年連続の部門賞に輝く。
代表の加藤泉氏は蒔絵師の家系を引き継ぐ職人。
本場アメリカで習得したジクレー版画を引っ提げて2001年に日本に帰国。
仕事師としての基本概念を
「デジタル技術と絵付け職人としてのこだわりの融合」とし、
その技法名を「アーカイバル®」と商標登録した。

今回、田中一村作品3種を「アーカイバル®」で製作(各限定120部)。
原画作品に対する解釈と深い想い、
色の追求と再現への努力、
豊富な経験に根差した挑戦の意欲、
「新たなオリジナル作品」を共に創り上げたいとするアーティー加藤氏に、
田中一村の作品を託すことにした。

2020年2月、田中一村記念美術館に協力を依頼し原画校正を行った。
間近にその色調を確認した時、改めて一村の色遣いの力強さとともに
その微妙なグラデーションを再現することの困難さを思った。
しかし、アーカイバル技法のこだわりによって最高品質を実現。
印刷の用紙は、米国製コットン100%の中性紙、特殊な顔料インクを使用しているため湿気に強く耐用年数が長い。
長期保存が可能という究極のデジタル版画が誕生した。

 

なお、本記事は監修・解説の大矢鞆音様より特別に許可を頂いております。
無断転載は固くお断りいたします。