田中一村の版画を弊社が初めて担当したのは、今から16年前、2004年のことでした。
当時制作した版画は全部で10作品。
奄美群島日本帰還50周年を記念し開催された「田中一村展」は
全国8か所で開催され、大きな反響を呼びました。
それから16年間、版画化を待ち望まれつつも一度も実現することはありませんでした。
そして2020年の本年、一村の奄美大島移住60周年を記念し、
代表作3点を版画化することが決定。
再びご縁をいただき、弊社にてアーカバル®版画制作を行いました。
このプロジェクトが始まったのは今年の1月。
ダイヤモンドプリンセス号のコロナ感染がじわじわとはじまり、
世界規模でのパンデミックが起きる前のことでした。
当初2回の予定だった色校正は上記の理由から一度へ短縮、
代表加藤が2月に奄美大島へ渡り色校正を行いました。
奄美大島の植物や動物を描き続け,独特の世界をつくりあげた田中一村。
無名の画家としてその生涯を閉じ、生涯一枚も作品を売ることはありませんでした。
その高潔なまでの生きざま、そして植物や動物を存在のありのまま描かれた作品は
多くの人の心をつかんで離しません。
暑くじめじめとしたお天気でありながら、日本一短い日照時間。
「明るさ」と「地味さ」が両立する、奄美大島特有の気候を「湿潤」と呼びます。
原画から伝わってくるのはまさにその「湿潤」でした。
豊かな自然や動植物を美しく明るく描き、
売れるような作品を描くこともできたはずなのに、
一村が描いたのは奄美大島そのものでした。
今回版画制作した3点も、一村のその意思を私たちが引き継げるよう
摺師として奄美大島の湿潤さ追求し、
彩度を不自然に上げたりせず、あくまで、「しっとり」とした表現に挑みました。
それは、インテリアとして飾りたくなるような、ポップな表現とは真逆の方向かもしれません。
今回の制作は監修者である大矢鞆音氏と版元のNHK出版の熱い想い、
そして「一村」自身による導きを様々な場所で感じる共作となったことを
最後に書き添えさせていただきます。